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本当はすぐにでも車から降りて確認しないといけないのに怖くて出来なくて……。
自分がこうやってモタモタしている間にも車の下でワンコが苦しんでいるかも知れないのに……。
そう思うといたたまれない気持ちで押しつぶされそうなのに、日和美はまるで心と身体が分離したみたいに動くことが出来なかった。
そんななか、スマートフォンに搭載された音声入力操作の力を借りて何とか信武に電話を掛けたことが、日和美に出来た精いっぱいで最良の方法で――。
信武がこの場に到着してくれてからやっと。
日和美は信武にしがみ付くと言う形で初めて自分の身体をぎこちないながらも動かすことが出来たのだ。
「ど、んなに頑張っ、ても……身体、動、かなくてっ。外に出、ることさ、え出、来なかっ、たの。……も、しかしたらっ、車の下でっ、ワンちゃ、が苦しんで、るかも、知れ、な……ぃのにっ。……私、私……」
――最低だ。
泣きじゃくりながら、声に出せなかったセリフを心の中で付け加えて。
信武に懸命に訴えたら、彼がピクッと反応したのが分かった。
「し……のぶ……?」
日和美の呼びかけに「大体分かった……」とだけ告げて、日和美の腕を振り解くようにして信武が日和美のそばを離れてしまうから。
自分でも自覚していたとは言え、信武からも〝最低〟と言うレッテルを貼られたのかも知れないと思ったら、日和美は涙が次々と溢れて止まらなくなった。
不安でたまらなくて……縋るような気持ちで信武を見上げたら、「車の周り、確認してくるだけだから。お前も気になってんだろ?」と頭をふんわり撫でられた。
***
オロオロと涙目で自分を見上げる日和美のそばを離れると、信武はスラックスが濡れるのもお構いなしに日和美の車そばにひざまずいて車体の下を覗き込む。
暗くてよく見えなかったから、スマートフォンのLEDライトを灯してみると、助手席側のタイヤの下で、茶色いふわふわがつぶされていた。
雨に濡れそぼった路面のせいで血が流れているのか、雨で濡れ光っているのが判別しづらい。
信武は日和美に見えないよう小さく深呼吸をすると、助手席側に回った。
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