(8)記憶の扉を開くカギ

5/7

518人が本棚に入れています
本棚に追加
/328ページ
日和美(ひなみ)さん、ごめんなさい……)  不破(ふわ)が昼食を食べるために、と日和美が置いて出てくれた千円札を握りしめると、不破は日和美の勤め先とは違う本屋に足を向けたのだった。  そして出向いたその先で、不破はある人物と出会うこととなる――。 *** 「あの……今、その本は不破さんの私物だって聞こえた気がしたんですけど……」  ――何かの間違いですよね?  そう続けようと戸惑いに揺れる瞳で不破を見詰めたら、「はい、確かにそう言いました」と信じられない言葉が返ってきて。  日和美は思わず「嘘……」とつぶやいていた。 「男がこういう本を好きだと気持ち悪いですか?」  途端悲しそうに眉根を寄せられて、今の「嘘」は決してそんな偏見から出た言葉ではないのだと、日和美は思いっきり首を横に振る。 「ちっ、違うんですっ。あ、あのっ。わ、私もっ……実はそういう本が大好きで……。でも大抵誰に話しても『ああ、エッチなやつね』って軽くあしらわれちゃってたから……。その、ひ、人に言うのはダメだと思い込んでて……それで……」  最近は同性の友達にだってこういうTLが好きだとは言えなくなっていた日和美だ。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

518人が本棚に入れています
本棚に追加