(9)そのまま俺に尽くせよ

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 記憶が戻ったのに自分のことを覚えてくれているらしい不破(ふわ)――もとい立神(たつがみ)に、日和美(ひなみ)はほんの少しホッとして。  だけどはいただけませんね⁉︎とも思ってしまった。 「あ、の……たつ、が、みさん……。色々お話をうかがいたいので手、放して頂いてもいいですか?」  日和美の大好きなTL(ティーンズラブ)なんかにはよくある展開だけれど、いかんせん日和美は実際の恋愛においては呆れるくらいに初心者(ビギナー)なのだ。  彼氏は過去に二人。高校生の頃と大学生の頃にいないこともなかったけれど、日和美のスキルが低すぎてどちらも深いお付き合いには至らず、処女(ざんねん)なまま現在に至る。  交際期間一週間とか十日とかを〝彼氏がいた〟にカウントしてもよい場合の話ではあるのだけれども。  物語の中ではあんなにときめくことが出来るキスですら、どうしたらそういう雰囲気になれるのかさえ全く分からない。  いや、相手がそういう雰囲気に持ち込んでくれても、恥ずかしさが勝って思わずムードをぶち壊したくなってしまって。  ハッキリ言って、日和美は若葉マークを付けるのもおこがましいような仮免許状態なのだ。  そんな日和美の腰を、立神(たつがみ)がグッと握ったまま離さない。  これは由々(ゆゆ)しき事態ではないか。  な、何とかして離れて頂かなくては!  そう思う日和美なのだが。 「なぁ日和美。折角一緒に住んでるんだ。苗字で呼ぶとかもったいないと思わねぇ?」  立神(たつがみ)信武(しのぶ)という男は宇宙人か何かなのだろうか。
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