(9)そのまま俺に尽くせよ

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「わ、私、通販でめちゃくちゃ重い綿の布団を買ったんです。それを天日干ししようとベランダに持って出て……」  うっかり下に落としてしまい、たまたまそこを通りかかった信武(しのぶ)に直撃させてしまったこと、そのせいで信武が(一時的に)記憶喪失になってしまったこと、身元が分かるものが何もなかったのでとりあえずアパート(ここ)へ来てもらったこと……などを矢継ぎ早にまくし立てた日和美(ひなみ)だ。 「ふ〜ん。なるほどねぇ。あー、けど……。まぁ確かに言われてみりゃーそんなことあったような気ぃしてきたわ」  途中で口を挟まれることも覚悟していた日和美に、信武は意外にも彼女が話す間は黙って聞いていてくれたのだけれど。 「あの危ない!って声はアンタのだったわけだ」  日和美が話し終わるや否やこめかみに手を当ててそうつぶやいて。 「そーかそーか。そう言うことか。けど……となるとあれだな。俺の仕事が今、めちゃくちゃやべぇことになってんのは全部日和美のせいって認識で合ってるよな?」  って続けてくるとか……本気ですか⁉︎ 「し、仕事……っ?」  ヒーッ!と震え上がりながらも、日和美。そう言えば信武のことについてまだ何ひとつ聞けていないじゃない!と思い至って。  ニヤリと企み顔で笑う信武の顔を見てふるふると震えながらも、そこだけは問わずにいられなかった。  今の信武からは不破(ふわ)と一緒にいる時に感じたような、〝ゆるふわな長閑(のどか)さ〟は微塵も感じられないから。  さすがに『王子さまをやっていらっしゃる』と言う妄想は綺麗さっぱり頭の中から追い出されている。  最有力候補だった〝不遇の貧乏王子説〟が(くつがえ)された今、日和美の中での信武の位置付けがどうなっているのかと言うと――。
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