(10)信武の彼女

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「つ、尽くしたくありませんっ」  たっぷり数十秒。  信武(しのぶ)が告げた言葉をじっくりきっちり頭の中で転がして、ゆっくりと自分なりに咀嚼(そしゃく)した日和美(ひなみ)は、視線を上げるとキッ!とすぐそばの信武を睨みつけた。  日和美なり。懸命に言われた言葉の意味を考えたけれど、優しい雰囲気のふわふわ王子――不破(ふわ)――に言われたならともかく、俺様鬼上司の信武にこき使われるのは嫌だ!という結論に達したのだ。 「はぁっ!?」  恐らく断られるなんて選択肢は信武の中に存在していなかったのだろう。  日和美が拒絶の言葉を発した途端、グッと二の腕を掴まれて身体を揺さぶられた。 「痛い……っ」  彼が不破だった時にも思ったけれど、華奢(きゃしゃ)に見えたってやはり男性だ。  信武がちょっとその気になれば、日和美の二の腕なんていとも容易くへし折られてしまいそうな気がする。  眉根をしかめた日和美に、しかし信武は「(わり)ぃ、つい……」とバツが悪そうにつぶやいて、すぐさま腕の力を緩めてくれた。 「信武さんも私も、ある意味今日が初対面みたいなものだと思いませんか?」  なのにいきなり不破にしたように尽くせだの、お前が気に入っただの、ついていけなくて当然ではないか。
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