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――彼女になってください。
――はい。
そこのところばかりを何度も何度もリピートされて、日和美はガッツリ信武に捕まえられたまま、わなわなと肩を震わせた。
「ひ、卑怯ですっ! 私、不破さんだと思ったからつい……」
そう。確かに日和美は再度豹変した彼に向って「不破さん?」と問いかけたのだ。
それなのに、酷い――!
そう言い募った日和美に、信武は自信満々な様子で「けど俺、それに対して『はい』だなんて一言も言わなかったと思うんだけど?」と言い返してくる。
そうして差し出されたボイスレコーダーで該当箇所を再生された日和美は、がっくりと肩を落とした。
確かにレコーダーに録音された音声データ上では、日和美の問いかけに対して〝不破さんもどき〟は何も応答してはいなかったから。
思い返せば、彼はうなずいたりもせず、ただ口の端に不破そのものの優しい笑みを浮かべただけ。
種明かしをされたあとで顧みれば、絶対計算づくでやったとしか思えないアレコレだったけれど、日和美はまんまとそれに乗せられてしまったのだ。
(私のバカっ!)
そう心の中で自分の浅はかさを罵ったけれど、後の祭り。
日和美は期せずして信武の彼女という立ち位置を手に入れてしまった。
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