(10)信武の彼女

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*** 「ホント手際がいいな」  ほう、っと感心したように言われて、物思いに(ふけ)っていた日和美(ひなみ)は思わず小さく肩を跳ねさせた。  それに気取られたくない一心でリズムを乱さないよう野菜を一定のリズムで粉みじんに切り刻みながら、実際のところはカウンター越しにこちらの作業を凝視している信武(しのぶ)が気になって仕方がない。  先程まではカウンターのこちら側で腰に腕を回された二人羽織(ににんばおり)状態だったのだけれど、さすがに包丁を使うし(邪魔だし)危険だからとカウンターのあちら側へ追いやったのだ。  もちろん、邪魔云々(うんぬん)の部分は心の中で思うに留めて口には出していない。  それよりむしろ、歯が浮くような気分でしどろもどろに告げた、「信武さんに怪我をさせたくないので」という言葉が一番効果的だったように思う。  信武は「俺、お前のそういう家庭的で優しい所が好きなんだ」とさらりと言うと、大人しく引き下がってくれたのだけれど。 (私の何を知ってるって言うのよ)  日和美のことなんてきっと、不破(ふわ)が残した写真裏のメモ書きくらいでしか知らないはずなのに。  恐らくは「料理が上手」と書いてくれている辺りを誇大解釈してくれているに過ぎないと思う。  ただ、不破を時の猫かぶりっぷりは本当に見事だったので、もしかしたら少しぐらいは記憶がない間のあれこれが残っているのかな?と期待しなくもない日和美だ。  もし信武の中に不破の時のあれこれが残っていたとしたら……日和美はそれを最大限に引き出して……あわよくば信武を不破に塗り替えたいとすら思っている。
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