516人が本棚に入れています
本棚に追加
/328ページ
「ふ、不破さんはそんなこと……」
「しねぇって言い切れんの? ――お前、アイツの何を知ってんだよ」
茶化すでもなくじっと真剣な表情で見下ろされた日和美は、その雰囲気に呑まれて「しない」という言葉が言えなくなってしまう。
ついでボソリと信武が「大体ありゃぁ俺の……」と続けるから、それが気になって意識をそちらに引きずられて。
でも信武はそれ以上その続きを話すつもりはないみたいに口を閉ざしてしまった。
(ねぇ信武さん。不破さんは貴方の……何なの?)
気になるのに聞くのが怖くて聞けなくて。
日和美は信武に腰を抱かれたまま、キュウッと身体を固くする。
そもそも不破は出会った時からずっと記憶喪失だった。
日和美は不破の柔らかな物腰と外観は彼の真実の姿だと信じていたけれど、実際記憶を取り戻した彼――信武――は不破とは似ても似つかない全くの別人格で。
今更のようにそれに気が付いた日和美は、自分が不破についてこうだと思っていたイメージの全てに、何だか自信が持てなくなってきてしまう。
考えてみると、不破はいつもヨロヨロと日和美が寝室から不破用の布団を持ち出すたび、「僕が……」と口走っていたのだ。
日和美は毎回それにちゃんと答えることが出来なくて、ただ曖昧に「大丈夫です」としか伝えてこなかったのだけれど。
もしどんな理由で日和美があんなにも頑なに寝室への入室を拒んでいるのか、是が非でも知りたいと不破が思ってしまったのだとしたら。
朝晩自分のため、重い布団を抱えてよろめく日和美の負担を軽くするという大義名分があったら、不破は簡単に禁を犯してしまいそうな……そんな気がして。
眉根を寄せて信武を見上げたら、信武が小さく吐息を落とした。
「ちなみに俺もこのアパートに帰ってきてすぐ。そこ、入ったから」
最初のコメントを投稿しよう!