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「ふぇっ?」
どこかに出かけていたような口ぶりもさることながら、至極当然のようにサラリと告げられた言葉に、思わず間の抜けた声を上げてしまった日和美だ。
「うそ……」
そんなこと一言も……。
そう続けようとして、日和美は不破――信武が自分のものだと告げた、キッチンに〝わざとらしく出しっ放しにされていた〟オフィスラブもののことを思い出した。
あれを日和美に見せたのは、立入禁止部屋の秘密を知っていると示唆するためだったのではなかろうか。
不破だったのか信武だったのか、今となっては曖昧なあの時の不破が、TLを肯定してくれて少しだけ気持ちが軽くなったのを思い出す。
「俺に言わせりゃ、見られてまずいモンなんかひとつもなかったぞ? さっきも言ったけどな、十代やそこいらのガキじゃあるまいし性描写があるモン好んで読んでるからって、どうってことねぇだろ」
さらりとそんなことを言い募った信武に「でもっ」と耳まで真っ赤にしたら、クスクス笑われてしまう。
「今度俺のコレクション見せてやろーか? 仕事柄お前のTL本なんて可愛く見えるよーなえげつねぇのだってゴロゴロしてっぞ?」
何でもないことみたいに「仕事柄」と織り交ぜられて日和美はハッとする。
「あ、あのっ、信武さんのお仕事って……」
今更またその話を蒸し返したら、「TLやBLにしか興味がねぇのかも知んねぇけどさ。お前も本屋の店員なら別ジャンルの作家の名前もある程度は知っといた方がいいと思うぜ? 大体俺、お前んトコの勤め先に近々……。ってまぁ、そりゃあ今はいいか」と意味深に微笑まれた。
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