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「明日も仕事だろ。寝るぞ」
何が何だか分からないうちに手を引かれて、何の躊躇いもなく『立入禁止』の貼り紙がしてある和室の引き戸を開けられた日和美は、知られていると分かっていてもやはりオロオロせずにはいられない。
「往生際悪ぃーぞ、日和美。俺、お前が萌風もふの熱烈なファンだってことも知ってっから安心してこっち来い。っちゅーか今更些末なことでいちいち狼狽えんじゃねぇよ」
敬愛する萌風もふ先生のことを名指しされて、思わず「ひっ」と引きつった声が漏れてしまった日和美だ。
(どうでもいいですけど、些末とか日常会話で使う人、私、初めて見ましたよ⁉︎)
混乱する余りどうでもいいことを思いつつ。
そこまで知られているということは、ちょっとこの部屋に入りましたよという感じではなく、棚に並んでいるアレコレをじっくりガッツリ眺められたとしか思えないではないですか!と、日和美は今更のように思い至った。
「お、お読みになられたのですかっ」
(私の濡れ恋コレクション!)
「は? バーカ、読んでねぇわ。自分が大事にしてるもん、他人に勝手にベタベタ触られんの、嫌だろ」
動揺の余り思わず敬語で語り掛けてしまった日和美に、信武が意外にも気遣いに満ちあふれた言葉を返してくるから軽く驚かされて。
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