(13)立神信武という男

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「あ、あのっ。ファンというか……、その……の影響でちょっと興味がわいて……。読んでみようかなぁと」  その知人が立神(たつがみ)信武(しのぶ)本人だとは口が裂けても言えないと思った。  それに、申し訳ないけれど自分は大衆文芸――しかもTL・BL畑。  直川賞(なおかわしょう)芥木賞(あくたぎしょう)を受賞するような、敷居の高い文学作品には造詣(ぞうけい)が深くない。 「そうなの!? 彼、物凄いハンサムなの知ってる? だし。思わず守ってあげなきゃいけなくなる感じっていうのかな? それが凄くいいんだよね。そのくせ作風は驚くほど野性味にあふれてて。ギャップ萌えっていうの? それが魅力なの!」  まくし立てるように一気に言うなり「観る?」と多賀谷(たがや)が自分のスマートフォンを日和美(ひなみ)の方へ向けてきた。 「……?」  何だろうとキョトンとした日和美に、直川賞(なおかわしょう)を受賞した際の、信武の挨拶動画が流される。 (不破(ふわ)さん……!)  金色に光り輝く屏風(びょうぶ)をバックに、スーツ姿の不破が――実際には立神信武らしいのだが――、日和美のよく知る王子様スマイルを振りまきながら受賞の喜びを口調で語っていた。  表情の作り方から喋り方、細かい仕草に至るまでどこからどう見てもそれは〝不破(ふわ) 譜和(ふわ)さん〟で。  日和美は(これ、本当に信武さん?)とフリーズしてしまう。
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