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「職場の先輩に観せられて授賞式の動画も拝見しました。……あれって――」
「不破さんだった、だろ?」
吐息混じりに言われて、日和美はコクッとうなずく。
「でも……何であんな……」
「編集から言われたんだよ。好感度を高めるため、見た目に合う喋り方で売り出しましょうってな。……んなわけで、お前の知ってる不破譜和は立神信武って作家の対外的な顔だ」
いつだったか信武が言い掛けた「大体不破は俺の……」に続くセリフはこれだったのか、と妙に納得した日和美だ。
「でも……私と初めて会った時から記憶が戻るまでの間、信武さんはどうして不破さんのままだったんでしょう?」
演じていた人格ならば、たとえ記憶を失っていたとしても、あんな風に表には出張ってこなかったんじゃないだろうか?
ずっと疑問に思っていたことを深く考えもせず口の端に乗せたら、「俺自身のことだから分かるんだけどな。……絶対そん時の俺、お前に一目惚れした自信あんだわ。っちゅーわけで……可愛いお前に嫌われねぇために無意識に自己防衛した結果なんじゃね?」と吐き捨てるように言われて。
「か、かわっ⁉︎」
「あん? 俺の彼女なんだから可愛いに決まってんだろ」
――何か文句あんのか?と言わんばかりの雰囲気で告げられて、それ以上は言えなくなってしまった日和美だ。
もう、とりあえず可愛い云々はともかくとして、と無理矢理気持ちを切り替えた上で、信武の言っていることももっともだな、と思う。
自分も初対面の相手にはそれなりに外面を整えてて〝よく見られたい〟と頑張るから。
信武は普段からそういう二重生活みたいなことを仕事で強いられていたから……。だから無意識下でもそれが出てしまったんだろう。
「それにな、俺があの日あそこを通りかかったのは偶然じゃねぇし。多分それも少なからず関与してるはずだ」
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