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ポツンとつぶやかれた言葉に「え?」と聞き返したら、信武がムスッとした顔で「俺はあの日山中日和美に――」と言いかけて、ハッとしたように押し黙る。
「私に……、何ですか?」
「……っ、何でもねぇ。気にするな」
それっきりそのことについては何も言うつもりはないとばかりに信武がそっぽを向くから。
日和美は仕方なく話題を変えた。
「……あの、不破さんは信武さんの一部ですか?」
ずっと思っていたことを問い掛けたら、信武が顔をこちらへ向けて思案顔をする。
「……まぁ、作られた人格かも知んねぇけど考え方の根本は俺だし……そういうことになるんじゃね? ――そもそも……お前が不破を俺と区別してるからそれに合わせて話してっけど……正直俺ん中じゃ〝皆に好かれそうな自分を演じてる〟って感覚なだけで、別人格ですらねぇしな」
言われて、日和美は少しだけホッとして。無意識に「ふぅ」と吐息を落としたのだけれど。
どうやら信武はそれを、抗議の溜め息だと思ったらしい。
「ひょっとして……俺と奴が一緒だって言われんの、嫌だったか?」
だから不安そうにそう聞かれた時、日和美は慌ててフルフルと首を横に振ったのだ。
ついでに、「信武さんと不破さんが全くの別人じゃなくてむしろ良かったと思ってます!」と続けそうになったのを、日和美は慌てて口をつぐんで封じた。
だってそれを言ってしまったら……不破に恋していた自分が、信武のことを好きだと認めてしまうような気がしたから。
そんなの、ダメに決まっているではないか。
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