(13)立神信武という男

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*** 「で、それがその先輩におすすめされたって(やつ)か」  夕飯を食べ終えるなりソファでくつろぐ信武(しのぶ)の前。  日和美(ひなみ)が「じゃじゃ~ん!」と効果音を付けて、今日勤め先で買ってきたばかりの本を袋から取り出して見せたら、何故か苦笑されて。 「それ、文庫版もあっただろ」  日和美が手にした自著を指差して、「何も値の張るハードカバーを買わなくてもよかったろうに。ぼったくられたんじゃねぇの?」とつぶやいた。  そんな信武に、日和美は「チッチッチ!」と人差し指を立てて顔の前、「私、それもちゃんと分かった上でハードカバー(こっちの本)を選んだんですよ?」と吐息まじりに指先を左右に動かす。 「私、ちょっとだけ調べたんです。作家さんに入る印税って……一概には言えないけれどほとんどの出版社さんで文庫もハードカバーも新書も……大体同じくらいの割合なんでしょう? でも、当然それぞれ単価が違うから。作家さんの実入り的には千円にも満たないような安価な文庫は、二千円近くするハードカバーより売れた際の儲けが少ない。――違いますか?」  買ってきた本を、両腕をクロスするようにして大切に大切に胸前へ抱えて。キッと睨みつけるように信武を見据えたら、瞳を見開かれた。 「――ま、まぁその通りなんだが」  ややしてポツンとそうつぶやくなり、信武は何故か真っ赤になって顔を背けてしまう。
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