(13)立神信武という男

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信武(しのぶ)さん?」  そのことが不思議で、日和美(ひなみ)はキョトンと小首を傾げた。 「何でお顔を背けるのですかっ」 「……いや、だってお前……それ、反則だろ」  そっぽを向いたまま信武が言うから。日和美はますますわけが分からなくて混乱する。 「何がですか?」  一歩ソファの方に詰め寄ってそう問いかけたら、突然立ち上がった信武にギュウッと抱き締められた。 「好きな女に〝あなたのために色々気ぃ遣いました〟みたいに言われてグッと来ねぇ男なんざおらんだろっ」  切な気に耳元でそんな風に落とされて、日和美の手からラグの上に本が落ちる。  不自然に開いた格好で伏せるようにして落ちたその本の表には、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』と書かれていた。  立神(たつがみ)信武(しのぶ)フリークの多賀谷(たがや)先輩曰く、エロスと純文学と、茶葉に対する雑学が入り乱れたこの作品こそ、立神作品の真髄らしい。  日和美的には『陽だまりの硝子玉(びぃどろ)』や『犬を飼う』の方が〝買いやすいタイトル〟で気になったのだけれど、ふとそこで信武の言葉を思い出した。  ――「今度俺のコレクション見せてやろーか? お前のTL本なんて可愛く見えるよーなえげつねぇのだってゴロゴロしてっぞ?」  あの時、日和美は、日和美のTL本が可愛く見えるんだろう?と思った。  多賀谷が勧めてくれた本のタイトルは、そこに触れられるものな気がしたから。  日和美は「よし!」と決意してコレをレジに持って行ったのだ。
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