(13)立神信武という男

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立神(たつがみ)先生って……。何かこいつに言われるとやたら照れ臭ぇな)  などと言うあれこれの本音をひた隠した信武(しのぶ)が、 「……お前、本当、本が好きなんだな」  ややしてポツリと何とかそう口の端に乗せたら、「でなきゃ書店に就職なんてしませんよぅ」と日和美(ひなみ)が心底嬉しそうに目尻を下げる。 「あ。私ね、こう見えて司書の資格も持ってるんですよ?」  ふふんと鼻を鳴らしてふんぞり返った日和美(ひなみ)に、「図書館員は狭き門だからな」と事実を述べたら盛大にため息を落とされた。 「お、おいっ」 (もしかしてこれは地雷発言だったのか?)  あっちこっちの図書館を受けてみたけど全部落ちた、とか……そういうのかも知れない。 (いや、けどコイツ、時、そんなこと一言も言ってなかったよな?)  理由までは聞かされていないが、、山中日和美の就活先は本屋一択だった、と信武だ。  その証拠にやはり。 「……バカですねぇ、信武さん。この町の図書館にはティーンズラブものが本屋さんほど充実していないの、ご存知ないんですかっ?」  ボーイズラブに至ってはもっと少ない。  当たり前だが新刊にだって、本屋にいた方がいち早く触れることが出来る。  だから自分は最初から司書になろうだなんて気持ちは毛頭なくて、ターゲットを書店に絞って就活したのだ、と日和美が胸を張るから。  信武は、(やはり俺のな)とホッとしたのと同時、思わず笑ってしまった。 「日和美。お前、本当ブレねぇな」  笑いながらクシャリと日和美の頭を撫でたら、途端 「そっ、その笑顔は反則ですっ!」  言って、何故か日和美が真っ赤になった。
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