(13)立神信武という男

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「な、な、なっ」  何のご用ですか⁉︎と言いたいのに、余りの事態にうまく言葉が紡げない日和美(ひなみ)だ。  そんな日和美に扉を全開にしてズイッと近付くと、信武(しのぶ)が彼女の柔らかな頬を両手のひらでムギュッと挟んだ。 「お前なぁ、勝手に自己完結して逃げんな」  呼び止めたのに無視されたことが気に入らなかったのだろうか?  至極不機嫌そうな端正な顔に見下ろされながら、日和美は両頬を押しつぶされた自分は今、眼前の信武とは対照的に超絶不細工になっているだろうな、と自覚する。 「ひゃ、ひゃめてくりゃしゃい」  やめてください、と言ってみたもののうまく言えなくて自然眉根が寄ってしまったのだけれど。 「やめて欲しかったらちゃんと答えろ。お前、何でさっき、あんなに急に真っ赤になったんだよ? 俺の顔が反則ってぇのはどういう意味だ?」 (そこ、そんなに掘り下げる必要がありますかね⁉︎)  日和美としてはそっとしておいて欲しいセンシティブな部分なのに。  信武はそれをどうしても追及したいらしい。  いっそのこと、信武の手を振り解いてすたこらさっさとトンズラしてしまいたい日和美だったけれど、タイミングが悪いことに今、日和美の手には『ある茶葉店店主の淫らな劣情』が握られている。  本好きな日和美の選択肢に、本を床に投げ捨てると言うものがない時点で、どんなに頑張っても使えるのは片手だけ。  加えて男性である信武の方が力が強いときている。  どう考えても、日和美に勝ち目なんてないではないか。
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