(15)しばらく一人にしてください

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***  (ふすま)には鍵がかからない。  だがしかし――。 ***  信武(しのぶ)は自宅マンションでシャワーを済ませて部屋着にもなるスウェット上下に着替えて深夜過ぎ、あくびをこらえながら日和美(ひなみ)のアパートへ帰ってきた。  約束通り扉にはドアチェーンが掛けられていなかったので、合鍵で難なく部屋に侵入する。  道すがら、日和美の部屋の窓を見上げて分かっていたけれど、彼女はもう寝ているらしい。  それで、鍵を開けるのもドアの開け閉めをするのも音を立てないよう極力気を遣った信武だ。  部屋のシーリングライトは消されていたけれど、夜中に信武が帰って来ることに対しての配慮だろうか。  台所のシステムキッチンのライトが付けられていて、真っ暗闇にはなっていなかった。 (こういうトコ。ますます惚れるだろーが)  日和美が自分のことを(おもんばか)ってくれていると実感できるだけで嬉しくてたまらない信武だ。  今日は昼過ぎ。昼食がてら日和美の書店近くの喫茶店で人と会った信武だったけれど、その流れで愛する日和美の顔を見たいと思ったのだが――。 ***  店内をくまなく探したつもりだったのに、昼間結局日和美はどこにも見当たらなくて。  棚の間をあちこちうろついては人気のない広めの通路で立ち止まって、何度か日和美宛にメッセージを飛ばしてみたけれど反応なし。  既読にもならないから(メッセージ自体に気付いてねぇのかも知んねぇな)と思って。 (店内にいねぇってことは休憩中だと思ったんだがな。違うのかよ?)  案外裏手の方で、何か作業をしていたりするのかも知れない。 (くそっ。そろそろ時間切れか)  信武自身、それほど時間があるわけでもないのに折角近くまで来たし……と思って要らぬ寄り道をしてしまったのだ。  正直そんなに時間にゆとりはない。
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