(15)しばらく一人にしてください

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(くっそ、惜しいわ)  いつか絶対ありのままの日和美(ひなみ)を自分の前にさらけ出させてやる!と目論んでいるとか言ったら、彼女はおびえるだろうか。  、日和美からだらけた日々の話を照れ隠しみたいに聞かされて、そういうヒロインを主役にするのも悪くねぇなと思ったのを信武(しのぶ)は鮮明に覚えている。  そんな日和美のだらりとした姿を見てみてぇなと無意識に思って、思わず苦笑したことも。  ただ、その時に書いていたものにジャージを着たような女の子が出てくる設定がなくて、保留のままできてしまった。  だが、新作でやっと実現できる予定だ。  「このヒロインはお前がモデルなんだぜ?」とか教えたら、日和美はどんな反応をするだろう。  考えただけで彼女の反応が楽しみでぞくぞくする。  今、マンションで、缶詰め状態で仕事をさせられていてもモチベーションが保てているのは、まさにそのためだ。 「あの、立神センセ?」  長い間物思いに(ふけ)り過ぎていたらしい。  小首を傾げられて、信武はまだ眼前に多賀谷がいたんだっけと思い出した。  何となく(面倒くせぇな)と思ったのはおくびにも出さず、頬を上気させた多賀谷に、心の中で小さく吐息を落とす。 (そういやぁ、前に対面した時もこんなだったか)  信武にとってこういうことは割と日常茶飯事なので、あからさまに異性として見られたからと言って、何も感じたりはしない。 「すみません。このところ執筆に追われて寝不足だったものですから、少しぼんやりしてしまいました」  わざと眉根を寄せて同情を誘うような表情を作って淡く微笑めば、多賀谷が「まぁ! それは大変です」と心配そうな顔をする。  その上で、なのに何故いま、出歩いているんだろう?と至極まともな問いにぶち当たったらしい。
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