(16)やましいことなんてひとつもねぇから

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 袋の大きさの割に、中には――。 (あれ? 昨日見た時は気がしたんだけどな? 私の見間違い?)  一瞬そんなことを思った日和美(ひなみ)だったけれど――。  自分の上に降り注いだ〝もの〟に視線を落とした途端、そんななんて綺麗さっぱり吹っ飛んで、瞳を大きく見開いていた。 「えっ!? ちょっと待って、信武(しのぶ)さんっ。これっ……」 「『ゆらたう』の販促用グッズと初回限定版の本だ」  日和美は萌風(もふ)もふ先生のデビュー作『ゆらたう』――『ユラユラたゆたう夏祭り〜金魚すくいですくったふわふわドS王子様からの濡れ濡れな溺愛が止まりません!〜』で彼女のファンになった。  『ゆらたう』に出会ったのは、本屋の店頭で表紙絵に惹かれてたまたま手に取ったのがきっかけだったから。日和美はこの処女作に関してのみ、他作品とは違って色々と出遅れていた。  そもそも日和美が持っている『ゆらたう』は重版がかかった第二版。当然初回限定特典などはついていなかったのだけれど。  いま目の前にあるのは、日和美が手に入れたくても入れられなかった、幻の数量限定・初回限定版だった。  予約分しか作られなかったらしいその初回限定版にのみ、書き下ろし小冊子が付いていたと知ってから、日和美はそれを読みたくて読みたくて仕方がなかった。  だが、萌風(もふ)もふファンはコアな読者が多いのか、古本市場にも出回ることがほとんどなくて。たまに出品されても値が張り過ぎて手が出せなかった日和美だ。
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