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デビューしたての作家の処女作に、限定版でオマケが付いていたこと自体きっと異例に違いない。
萌風もふ先生は出版社にとって、相当期待を掛けられた新人だったのだろう。
もしくは――。
元々のファンがけた違いに多かったのかも知れない。
昨今、Web上で自作を発表している素人作家が、読者からの人気に押されてプロデビューを果たすと言うのはよくある話だ。
きっと、萌風もふ先生もそんな感じだったのだろう。
「お前が持ってんの、初版じゃねぇんだろ? あいつが言ってた」
「……え?」
何でもないことみたいにぼそりと告げられた信武の言葉を、思わず聞き返してしまった日和美だ。
だって、信武が言った〝あいつ〟は萌風もふ先生に違いなかったから。
「あ、あのっ、信武さんっ! 萌風もふ先生……私のこと……」
「あ? 何年も欠かさず毎月毎月ファンレター送ってくるような熱烈なファンなんだろ、お前。相当バカでもねぇ限り覚えるわ、普通」
信武が言う通り、日和美は高校生の頃、萌風もふ先生にハマって以来ずっと。
新刊が出ても出なくても毎月一通、彼女にファンレターを欠かさず送り続けていた。
新刊が出た時は新刊の感想を。
そうでないときは自分に起こった日々のこと、またはあとがきに書かれていた内容にちなんだあれこれを、作品のキャラたちへの妄想を交えながら熱心に手紙へしたためた。
萌風先生のツブヤイターアカウントをフォローしてからは、彼女のつぶやきを意識したファンレターも送って。
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