(16)やましいことなんてひとつもねぇから

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 デビューしたての作家の処女作に、限定版でオマケが付いていたこと自体きっと異例に違いない。  萌風(もふ)もふ先生は出版社にとって、相当期待を掛けられた新人だったのだろう。  もしくは――。  元々のファンがけた違いに多かったのかも知れない。  昨今、Web上で自作を発表している素人作家が、読者からの人気に押されてプロデビューを果たすと言うのはよくある話だ。  きっと、萌風(もふ)もふ先生もそんな感じだったのだろう。 「お前が持ってんの、初版じゃねぇんだろ? 」 「……え?」  何でもないことみたいにぼそりと告げられた信武(しのぶ)の言葉を、思わず聞き返してしまった日和美(ひなみ)だ。  だって、信武が言った〝あいつ〟は萌風(もふ)もふ先生に違いなかったから。 「あ、あのっ、信武さんっ! 萌風(もふ)もふ先生……私のこと……」 「あ? 何年も欠かさず毎月毎月ファンレター送ってくるような熱烈なファンなんだろ、お前。相当バカでもねぇ限り覚えるわ、普通」  信武が言う通り、日和美は高校生の頃、萌風(もふ)もふ先生にハマって以来ずっと。  新刊が出ても出なくても毎月一通、彼女にファンレターを欠かさず送り続けていた。  新刊が出た時は新刊の感想を。  そうでないときは自分に起こった日々のこと、またはあとがきに書かれていた内容にちなんだあれこれを、作品のキャラたちへの妄想を交えながら熱心に手紙へしたためた。  萌風(もふ)先生のツブヤイター(SNS)アカウントをフォローしてからは、彼女のつぶやきを意識したファンレターも送って。
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