(16)やましいことなんてひとつもねぇから

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「――はぁ!? 今更それ聞くのかよ。俺、今まで散々お前に言ってきただろーが、バカ日和美(ひなみ)め! 酔狂や冗談で俺の女になれって言うほど俺は(おりゃあ)暇じゃねーんだよ! 分かったか!」  グイッとあごを持ち上げられてじっと瞳を覗き込まれた日和美は、余りの顔の近さに思わずたじろいでしまう。 (あ……、これ、絶対キスされるやつ)  そう思いながらも、言わずにはいられない。 「……じゃあなんで今、私の言葉に応えて『好きだ』って言ってくれないんですか? 意地悪ですか?」  掴まれた手をグッと掴み返してじっと彼を見上げたら、信武(しのぶ)が驚いたように瞳を見開いた。  そうしてククッと喉を鳴らして笑い出す。 「なぁ、日和美よ。その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ。――で、結局お前はどうなんだ? 俺のこと、ちったぁ好きだと思えるようになったのか。俺も前からそれ、お前に聞いてると思うんだがな⁉︎」  掴んだ手首を逆の手でグイッと掴み直されて、日和美はぶわりと頬を赤く染める。 「――す、好き……です……。ちょっとどころじゃなく沢山沢山好きです……!」  照れ隠しに「多分」と付け足してしまった日和美をグイッと腕の中に抱き締めると、信武が日和美の耳元で低く甘くささやいた。 「――俺も日和美が好きだ。ちょっとどころじゃなく目一杯お前に惹かれてるから安心しろ。神様なんざ信じちゃいねぇーけど今だけそいつに誓ってやってもいい。やましいことなんてひとつもねぇから。黙って俺に愛されろ」
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