(17)サイン会ハプニング

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 日和美(ひなみ)のことを本気で想うようになったから余計に分かる。  憧れと恋愛は別物だ、と――。 ***  Webpedia(ウェブペディア)にも出ているように、信武(しのぶ)は高校生のころ『丸川書店』が主催する『マルカワ雷撃文庫』で新人賞を獲って商業作家デビューを果たしたのだが、その当時すでに『玄武書院』で編集者として働いていた茉莉奈(まりな)が、「信武のバカ! 何でよそに応募するのよ!」とすごく悔しがったのを覚えている。  信武としては信真(おや)茉莉奈(いとこ)のいる『玄武書院』の公募へチャレンジすることだけはなしだと思っていただけなのだけれど……。  広いようで狭い業界。  いくらよその出版社に出しても、デビューが決まるほどの傑作を生み出してしまえば、素性にだって自然と気付かれるもので。  ましてや信武は本名(Shinobu Lichères Tatsugami)のミドルネーム、〝Lichères(リシェール)〟をちょっぴり変化させただけの〝リシュエール〟をペンネームにしてしまっていたから、余計にバレやすかった。  丸川書店の社長とも懇意(こんい)にしていた父親に受賞と作家デビューのことがダダ漏れてしまった結果、茉莉奈にも伝わったのだ。  当時はまだ実家住まいだったため、どうしても受賞の連絡あれこれは家の方の連絡先を使わないわけにはいかなかったのだから仕方がない。  応募の際に記載したミドルネーム抜きの本名〝信武〟という割と目立つ名前も後押しして、丸川の社長もすぐに「おや、この名前は……」と気付いたらしい。  結局デビュー作の『ひとりぼっちの竜王と、嫌われものの毒姫さま』のみリシュエールのペンネームで『丸川書店』から。  以後は丸っと父親の出版社『玄武書院』へ引き受けられる形になって、ペンネームもその時にリシュエールから立神信武に統一した信武だ。  そうしたのにはちゃんと理由があって――。
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