(17)サイン会ハプニング

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 真後ろにニコニコと笑顔を浮かべて(ひか)えている――(にら)みをきかせている?――茉莉奈(まりな)がいなかったなら、実際はもっとグダグダだったかも知れない。  今回サイン会に参加できる権利を得たのは、新刊『誘いかける蜜口(みつくち)』購入者の中から、抽選に当たった者だけと言う話だったはずなのだが、それでも立神(たつがみ)信武(しのぶ)は人気作家だ。  結構な人数の読者を当選させたのだろう。  サイン会の列はかなり長めで、店員らの誘導によって買い物客らの迷惑にならないようクネクネと通路を曲がりくねるように整備されていたから。  列の後ろの方は死角になっていて信武からは全く見えなかった。  サイン会にあてがわれた時間は一応一時間。  当初は二時間の予定だったところを、信武の執筆活動に影響が出るからと、『玄武書院』側が直前になって待ったをかけたらしい。  実は元々二時間でOKを出していたそうなのだが、信武が突然(記憶喪失で)行方をくらませた影響がその辺りにも出てしまったのだ、反省しなさい、と茉莉奈にお小言(こごと)を言われた。  実際、ひとつ雑誌の掲載を休載せざるを得なかった信武としては、何も文句なんて言えなくて。  二時間想定で集めたファンを、一時間でさばくのは相当困難かも知れないけれど、死ぬ気でやるしかないと覚悟した。
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