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サイン会は、一人大体四〇秒以内。
サインを入れてもらうため、信武の新刊『誘いかける蜜口』を差し出してくるファンと、二言三言交わして、相手からの希望があれば「○○さんへ」などと宛名を書き添えてから、その横へ目を閉じていても書けるほどに手癖の付いたサインを入れて、「有難うございました」で終わる感じ。
中には本と一緒にプレゼントを手渡してくれるファンもいるが、受け取った品物は信武がサインを書き終えて「有難うございました」を言って、次のファンと入れ替わるタイミングで、茉莉奈がサッと横合いから手を伸ばしてきて後ろへ用意した箱の中へ仕舞うという流れ作業。
ある程度箱が一杯になったら、書店側が新しい箱を持ってきてくれてそちらへ詰め始めると言った様相だ。
ずっと信武のそばに背後霊みたいにくっついている茉莉奈と違って、書店側の担当はサイン会参加者や、店舗自体への来店者の客足らいなどでちょいちょい信武のそばを離れて動き回っている。
だが、ハッキリ言って当の信武にはそんなことを気にしているゆとりなんて皆無だった。
三つ葉書店の話では、今日サイン会抽選に選ばれた人数はきっちり百人。
当初の予定通り二時間あればまぁまぁゆとりを持ってこなせる人数だったのだが、玄武書院の都合――というより信武のグダグダのせい――で勝手に半分の時間に縮めてしまったため、どう考えても一時間以内でこなすのは無理に思えた。
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