(18)すべての真実

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「その……間違っても前みたいにシャットアウトだけはしてくれるな? ……分かったな?」  それで声のトーンを低めて(うかが)うような口調でそう懇願(こんがん)したら、日和美(ひなみ)が寸の間逡巡してから。それでも「……分かりました」と言ってくれて。  信武(しのぶ)はガラにもなく心底ホッとした。  一ファンへの対応とは明らかに違うそのやり取りの最中(さなか)茉莉奈(まりな)が何も言ってこないところを見ると、彼女も目の前にいる日和美(女性)を察してくれたんだろう。  決してファンの前で信武が〝俺〟と称することを許さなかったはずの茉莉奈が、黙って成り行きを見守ってくれていることがその何よりの(あかし)に思えた。  幸い日和美が最後尾に並んでいてくれたことも功を奏したに違いない。  これが、日和美の後ろにまだ別のファンが並んでいるような状況だったなら、例え相手が信武が気にかけていた女性だと気が付いていても、茉莉奈は今みたいな私的なやり取りを絶対に許さなかったはずだ。  日和美がサイン本を胸に抱えて信武を不安そうな顔で見詰めてくるから。  信武は日和美に〝大丈夫だから〟とうなずいて見せる。  書いているとき、日和美が見ていたかどうかは分からないが、いま彼女に手渡したサイン本に書き添えた『お前のことが好きだ。俺を信じろ』と言うメッセージに嘘偽(うそいつわ)りはない。
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