(18)すべての真実

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(ホント、不思議な女だ)  車に乗せた時にも、この辺りでは高級な部類に入る低層マンションの五階――最上階住戸(ペントハウス)に招き入れた時にも、日和美(ひなみ)は同じように息を呑んで目を白黒させてから、恐る恐る信武(しのぶ)の反応を(うかが)うように「お邪魔します」と言った。  信武の住んでいるマンションは、エレベーターを降りるなり部屋のなかと言う構造ではないものの、最上階は信武が住んでいるこの部屋しかないから、基本的には信武に用がない人間は上がってこない。  エレベーターを降りるとすぐ、ペントハウスのためだけのタイル敷きの玄関ポーチがあって、その先の玄関扉を抜けてすぐの土間にはシューズクロークと、自転車などが仕舞える広めの物入がある。  信武は自転車は利用していないので、物入にあまり物は入っていないのだが、コートなどは数着そこへ掛けるようにしていたし、使うあてがなくなってしまったけれど、愛犬ルティシアの散歩道具もそこへ入れてあった。  廊下を抜けた先には六畳相当の洋室が三つと、浴室と洗面所、バルコニーが二か所。  それらに囲まれる形でど真ん中に十五畳のリビングダイニングといった間取り。  一人で住むには広すぎるこの住居は、小ぢんまりしたアパート住まいの日和美の目に、さぞや贅沢に映っただろう。  まぁ、信武が日和美の立場でも、ヒモみたいな生活態度ばかり見せていた相手が、いきなりこんな……金に困っていなさそうなものを見せてきたら戸惑うと思う。  そう。自分自身思っているのだ。  このマンションが身分不相応だということは。  実はここ、父――立神(たつがみ)信真(のぶざね)の資産のひとつで、信武がここに住まわされているのは、ある意味親から首輪を付けられているようなものだ。  もちろんそこそこに名の売れた作家になってからは家賃などもちゃんと払っているのだけれど、それにしたって親の手のひらの上で踊らされていると言う気持ちは(ぬぐ)えない。  信武が何だかんだ理由を付けて日和美の家に入り浸っていたのは、そういう理由もあった。
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