(18)すべての真実

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「『犬姫』だけ別の出版社から本が出た絡みで実写の著者近影が欲しいって言われてな。さすがに俺の顔はメディアに出過ぎちまってたから苦肉の策で茉莉奈(まりな)……、えっと……今日いた担当編集の女な? ――まぁ従姉(いとこ)なんだけど……あいつに代理を頼んだんだ」 「いとこ……」  どこか安心したように日和美(ひなみ)がつぶやくのを見て、信武(しのぶ)もホッとして。再び過去の出来事に思いを飛ばす。  〝立神信武〟は玄武(げんぶ)書院の専属作家だが、彼の裏ペンネームが〝萌風(もふ)もふ〟であることは業界にもオフレコだったから。  よその出版社からオファーがあったとき、断り切れなかった。  結果玄武(げんぶ)でなら何とかなるアレコレがうまく回らなくて。  版元の要望通り、『何でも良いから萌風(もふ)もふの顔になりそうなお前の写真をくれ』と頼んだ信武に、茉莉奈も、普段通りの格好では恥ずかしかったのか、わざわざ和装をして髪を下ろし、まるで日本人形のような大和撫子然(やまとなでしこぜん)としたコスプレ姿のポートレートを渡してきた。 『変装よ、変装!』  吐き捨てるみたいにそう言っていたが、日和美に見破られてしまったのだから果たしてうまくいっていたのかどうか。 「茉莉奈があんなのはもう二度とごめんだって断固拒否してきたからな。萌風(もふ)もふも玄武書院の専属で他からのオファーは断るってことになって……ついでに玄武書院(うち)から出す本は萌風(もふ)でデビューした時に『ゆらたう』で使った、モフモフイメージで俺が描いた超絶テキトーな落書きが共通の自画像ってことになったんだわ」  一冊だけ別レーベルから出版された『犬姫』以外の本に写真が載らなかったのはそう言うことだったのだと知った日和美は、何だか色々繋がって、ただただ驚くばかり。  ついでにあのほのぼのとした綿玉(わただま)みたいなゆるキャラ風自画像が、信武の手によるものだと言うのにも二度びっくりだ。
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