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「あ。……あー。その、……悪かったな、つい……」
バツが悪そうに頭の上から信武の手が離れたのを感じた日和美は、それだけでギューッと心が締め付けられてしまう。
ついさっき、犬扱いは嫌だと文句を言ったくせに。
日和美は思わず遠ざかる信武の手を、束ねられたままの両手でバシッと捕まえて……。
「あ、あの……でもね、私っ。その、……し、のぶ、に撫でられるのはそんなに嫌いじゃないから……。えっと、……で、出来れば……その、続けて……欲しい、です」
掴んだ信武の手を自分の頭の上に無理矢理載せて、窺うように彼を見上げた。
未だに信武を呼び捨てにするのは慣れないし、そうするだけで物凄く照れ臭い。
そのうえ一度は拒絶したくせに、自ら撫でて欲しいと乞いねだるとか……。
恥ずかしすぎて顔から火が出そうになった日和美だ。
「ワ、ガママでごめんなさぃ……」
結果、謝罪まで付け加えた日和美を驚いたように見返した信武が、何かをこらえるみたいにグッと下唇を噛んだ。
「……お前のそういうトコ、ホント反則だわ」
ややして絞り出すようにそうつぶやくなり、信武は日和美を腕の中に閉じ込めて、痛いぐらいにギューッと抱き締めた。
日和美がワイシャツのボタンをモタモタしながらも半ばまで外していたせいで。
期せずして信武のむき出しの胸元に頬を押し当てられる形になった日和美は、自分が裸なことを今更のように自覚して死にそうに恥ずかしくなる。
ちょっとでも息を吸い込もうものなら洗濯石鹸の香りがほんのりと混ざる信武の体臭に、脳みそがノックアウトされてしまいそうで、日和美は呼吸さえままならない。
「なぁ日和美。俺、もう我慢出来そうにねぇわ。自分から言い出しといて何だけど……。ペナルティー全部無視で先に進めさせてもらっていい?」
耳元で切ないくらいに掠れた声音で問い掛けられた日和美は、酸欠でぼんやりと考えがまとまらないまま、コクッとうなずいた。
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