(21)ふたりで一緒に暮らしたい

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「締め切りは破りゃしねぇよ。今までだって……それこそ記憶喪失になった時しか原稿落としたことねぇし」 「でも茉莉奈(まりな)さん、最近の信武(しのぶ)は結構締め切りギリギリでヤキモキさせられるってこぼしてたよ? 私と付き合い始めてからそんな風になったって思われたとしたら……すっごく悲しいんだけどな?」  言われて、信武は心の中で盛大に溜め息をついた。 (日和美(ひなみ)のやつ、ここ最近俺といる時間より茉莉奈といる時間の方が長くねぇか?)  信武のいないところで、信武の担当編集であり従姉(いとこ)でもある土屋茉莉奈と、喫茶店でお茶をしたりレストランへランチを食べに行ったりと、かなり友好的に付き合っているらしい日和美に、信武はちょっぴり――いや、かなり――ヤキモチを妬いていたりする。  信武のマンションで原稿待ちをしていた茉莉奈を、たまたま居合わせた日和美が気に掛けてもてなしたことが、二人を懇意(こんい)にしたきっかけらしいというのも、何だか自分のせいみたいで死ぬほど腹立たしいではないか。 *** 『前に信武が茉莉奈さんと打ち合わせをしてた喫茶店があるでしょ? 私の職場近くの――』 『喫茶まちかど?』 『そう、そこ! 私、あそこに行くの、ずっと憧れてたんだけど一人じゃどうしても敷居が高く感じられて行けてなくて。そう話したら茉莉奈さんが一緒にランチ行こうって誘ってくれたの。今日のお昼はそこだったんだけどね、コーヒーはもちろん、ナポリタンが凄く美味しくて感動しちゃった! 信武も仕事が落ち着いたら一緒に行こうね?』  以前そんな風に日和美に語られた時には、内心(何で俺じゃなくて茉莉奈と行ったんだよ! 簡単に俺以外のやつに初めてを奪わせてんじゃねぇよ!)と思ってしまった信武だ。  それに――。  ただ単に日和美が信武以外の人間と仲良くなるというだけでも何だか腹立たしいと言うのに、茉莉奈はちょいちょい信武の愚痴を日和美にこぼすらしく、それが何とも性質(たち)が悪いのだ。  恐らく意図的に日和美から信武へ発破を掛けさせるための茉莉奈の作戦なのだが、日和美はそんな茉莉奈の思惑なんて気付かないんだろう。  純粋に信武の仕事の進み具合を心配してくるから、信武としては物凄くやりづらい。
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