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そればかりか、マノンが信武に向かってしたり顔でにっこり微笑むから。
「――?」
何が言いたいんだよ?と思いながら見詰め返した信武だ。
そんな信武の視線の先で、マノンのショートカットに切りそろえられた春の陽だまりみたいなキラキラの金髪が、彼女が小首を傾げたのに合わせてさらりと揺れて。
信武は、不覚にも自分の母親をまるで天使みたいだと思ってしまった。
髪色のせいだろうか。
幼い頃から、どちらかと言うと母親似だと言われ続けてきた信武は、粗野な口調の自分がこのピュアっピュアな印象の母親に似ていると言われることに、何だか少し申し訳ない気持ちがしたものだ。
「信武くぅーん。私、茉莉奈ちゃんから聞いて知ってるのよ? 貴方に可愛い可愛い彼女が出来たってこと♥」
そのせいでマノンが、そのほわんとした外見には似合わず、ある有名ボクサーのように〝蝶のように舞い、蜂のように刺す〟やり手経営者だということをすっかり失念してしまっていた。
「しぃーくんは大好きな彼女と一緒に暮らしたくて、のぶくんが用意した檻から出たいだけなんでしょう?」
母・マノンは、自身の血統であるフランスと、生まれ育ったアメリカ、それから夫の故郷である日本の三国を股にかけて商品展開をしている化粧品会社『ジャパフラメリカ』のCEOなんてしていたりするのだが、家でのふんわりした姿を見る限り、彼女がやり手の経営陣トップだとはどうしても思えない信武だ。
だが、今ふんわり目の前で微笑んでいるマノンは、間違いなくやり手経営者の目をしていたから。
図星をさされた信武は、思わずソファーの上でピシッと姿勢を正した。
「ふふっ。その感じからしてビンゴね?」
信武の様子にマノンが微笑して、一人話が見えていない父・信真が、
「マノン? 彼女とか檻とかビンゴとか……。一体どういう意味なんだい? 私にも分かるように説明してくれないかな?」
キョトンとした顔でそんな二人の様子を交互に見遣った。
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