(21)ふたりで一緒に暮らしたい

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***  何とか日和美(ひなみ)に場所を聞いて駆けつけてみると、現場は日和美のアパートまであと数百メートルと言った場所だった。  信武(しのぶ)は少し広くなった路肩へハザードランプを焚いて愛車を停車すると、さっきまでの豪雨(ごうう)が嘘みたいに止んだ、――だけどそこらじゅう水溜まりだらけの道路を足元が濡れるのもお構いなしに水を跳ね飛ばしながら日和美の車へ急いだ。  日和美の車にたどり着くなりコンコンと窓ガラスをノックしたら、日和美が窓にしなだれかかるみたいに項垂(うなだ)れさせていた顔をノロノロとこちらへ向けて、ドアロックを解除してくれる。  駆けつけるまで電話を受けて五分も経っていなかったはずだ。  だけど、日和美は呆然としたままずっと泣き続けていたんだろう。  目を泣き腫らしてぐしゃぐしゃになっていた。 *** 「……し、のぶっ」  信武が車のフロントドアを開けてくれるなり、日和美はシートベルトを外すことも出来ないまま懸命に信武に(すが)り付いた。  まだ風呂に入れていないらしいTシャツにスラックスというラフな姿の信武からは、嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りと彼自身の体臭がふわりと香って。  日和美の動揺しまくった心を優しく包み込んでくれる。  信武にしがみ付いていてもなお震えの止まらない身体を、信武の大きくて温かい手がそっと(いた)わるように撫でさすって。 「――何があった? ゆっくりで構わねぇから俺にも分かるように話せ」  信武が静かに問い掛けてきた。  そんな信武に応えようと、日和美は懸命に口を開いたのだけれど、出てきたのは「、っ……ぬ、が……」という意味不明な音だけで。  ちゃんと伝わるように話したいのに、思うように言葉が出てこないことをもどかしく思った日和美だ。  だけど要領を得ない日和美の物言いを、信武は微塵もイラついた様子を見せず「何のことか」と聞き返してくれるから。  日和美はひくひくとしゃくりあげながら、道路上にうずくまっていた小さな犬を跳ね飛ばしてしまったかも知れない、と泣きながら途切れ途切れ。  何とか信武に訴えた。
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