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(頼むから違ってくれ)
信武だって生き物は嫌いじゃない。
自分自身、ちょっと前に可愛がっていた愛犬を亡くしたばかりでもある。
出来ればとうぶんの間、生き物の死骸なんて見たくなかったけれど、愛する日和美のためだと思ったら、自分を鼓舞することが出来た。
一度大きく深呼吸をしてすぐそばから確認してみると、タイヤ下でつぶれていたのは生き物ではなく何かの動物を模したぬいぐるみだったから。
「良かったぁぁぁー」
そのことに心の底からホッとした信武だ。
――日和美、お前が轢いたのは生き物じゃねぇよ。
すぐにそう伝えて日和美を安心させてやりたくて立ち上がったと同時、信武の足に何かがまとわりついて来た。
「――?」
ライトを向けて足元を照らせば、それは生後三か月ぐらいのよく肥えた黒い子犬で。
四つ足の先全てと、尻尾の先だけが白い毛なのが、とても目立って見えた。
「ちび、お前、どっからわいた」
――黒毛だったから暗がりに紛れて見えなかったんだろうか。
そんなことを思いながらそっと抱き上げてみると、雨に濡れそぼっているからだろう。
子犬はふるふると小刻みに身体を震わせていた。
一瞬日和美が跳ね飛ばしたと言ったのはこいつだったか?と不安になった信武だったけれど、こうして抱き上げてみた感じ、どこからも血が出ているような気配はなくてホッとする。
あちこち撫で回してみたけれど別段痛がる様子もない。
信武が子犬を抱いたまま視線を転じると、すぐそばの建物の駐車場にある看板の支柱わき。
ぐしゃぐしゃによじれたブランケットと、ドッグフードの入った器が、倒れた段ボール箱の周りに散乱して、雨に打たれてドロドロになっていた。
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