(21)ふたりで一緒に暮らしたい

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 暗くてよく分からなかったが、どうやら背後の建物は小さな動物病院らしい。  中の明かりはおろか、外に立てられた看板の照明すら完全に消えているところを見ると、診察時間は終わっているようだ。  信武(しのぶ)が、亡き愛犬ルティシアを連れて行っていたのは別の病院だったからここへは来たことはないけれど、おそらくこの子犬、どこかのろくでなしがそこのスタッフに見つけてもらえることを期待して捨てて行ったんだろう。 「バカが……! 無責任なことすんなよ」  思わず信武が苦々しげに吐き捨てたのも仕方があるまい。  用意されていたのは深めのミカン箱だったけれど、子犬はじっとしていられなかったんだろう。  その箱から抜け出してウロウロしていたところに、折悪(おりあ)しく日和美(ひなみ)が居合わせてしまったのだ。  未遂(みすい)だったから良かったようなものの、タイヤ下にいるのがこの子犬だったらと思ったら、日和美をどう慰めたらいいか信武にも分からなかった。 「……生きててくれてサンキューな」  幸い日和美が()いたのは恐らくこの子犬と一緒に入れられていたぬいぐるみだ。 「お前は無傷……だよ、な?」  服や手が汚れるのもお構いなしに濡れた子犬をしっかり腕に抱いて撫でさすったら、まるで信武に応えるみたいに可愛い声で腕の中の小さいのが「クーン」と鳴いた。  信武は子犬を抱いたまま日和美のそばまで戻ると、「子犬、無事だったぞ」と日和美の前にプルプル震えている、黒いちっこいのを突きだして見せる。 「……本当(ホン、ト)に? でも……私、確かに何かを」 「ああ、助手席タイヤ下にぬいぐるみがつぶれてっから多分それだろ」  信武の言葉に、日和美が心底ホッとしたように脱力した。
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