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その言葉にニヤリとした信武が、「だったら……俺の息子、触ってみてくんね?」と誘いかけてきた。
「えっ?」
いきなり突きつけられた信武からの予期せぬ申し出に頓狂な声を上げてから、「わ、私、……そういうの下手だし……信武が自分で触った方がきっと」と、しどろもどろながらも何とか言った日和美だ。
なのに。
「もう試してみた」
とか。
「嘘……」
「ホント」
そう即答されてしまっては、日和美は信武の要望を叶えてあげるしかないではないか。
「え、えっと……失礼します」
信武に導かれるまま彼の下半身に手のひらを這わせた日和美は、次の瞬間「信武の嘘つき!」と叫んでいた。
だって信武の〝信武〟はめちゃくちゃ元気だったから。
「バーカ。――んな簡単に騙されんなよ、日和美。お前がいんのに俺が不能になるわけねぇだろ」
ククッと喉を鳴らして「今日はエイプリルフールだぞ」と意地の悪い笑みを浮かべた信武にグイッと引き寄せられて。
「けどさぁ、お前に触れられた方が興奮するっちゅーんはマジだから……。お願い、日和美。このまま続けてくんね?」
そう吐息混じり。
日和美の耳朶に、いつもとは違った鼻声の低音で吹き込んでくる――。
そのせいで、日和美はゆでダコみたいに真っ赤になった。
「信武の四月馬鹿!」
日和美の照れ隠しの叫び声が朝の日差しを遮光カーテンで遮った寝室に響き渡って……。
今までは飼い主二人のやりとりを自分のベッドの中から静かに見つめていたファタビーが、ワン!と吠えて、日和美の悲鳴に嬉しそうに加担した。
END(2023/04/01)
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