(3)君の名は

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 幸い〝例の本たち〟はふわふわさんには見つからずに済んだ。  ちなみにその間ずっと、彼はしきりに汚れてしまった掛け布団を気にしていて。  「そんなのカバー掛けちゃえば見えなくなっちゃうし、気にしなくていいですよぉー」と言いながら、日和美(ひなみ)は一人、キッチンに立っている。 「ど、ドクダミ茶とかお口に合いますでしょうか?」  お茶でも飲みながらと誘ったくせに、棚を開けてみたら生憎(あいにく)紅茶を切らしてしまっていた。 (王子様といえばお紅茶なのにっ!)  そんなことを思う日和美に、「ドクダミ、ですか?」と、ほわりとした声音が返る。 「はい」  ならば、と珈琲をいれようと思った日和美だったけれど、元々お茶派の日和美宅には、随分前に友人が来た時に買ってそのままにしていたインスタントコーヒーしかなくて。  それを棚の奥から引っ張り出して恐る恐る(ふた)を開けてみたら、見事湿気ってカチカチに固まってしまっていた。 (こんなのさすがに出せないよ)  スプーンでちょっとだけガリガリしてみてから、全然崩れそうにないことを確認して、後で捨てておこうと決意したまでは良かったのだけれど。  結果お出し出来るものの選択肢が、煮出して冷やしてあるドクダミ茶のストックオンリーになってしまった。
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