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「これ、ものすごく飲みやすいです。それに、とっても美味しい」
今度はゆっくり味わうように二口ほど飲まれてから、ふわふわさんが日和美をじっと見つめてきて。
「そっ、それはよかったです」
まさか大抵の友人たちには不評のこのお茶が、こんなにも喜んでもらえるだなんて思っていなかった日和美は、わけも分からずやたらと照れてしまった。
*
「そ、それで。あの――」
ピッチャーを冷蔵庫に戻してから、自分のグラスを机上に置いてカウンター越し、ふわふわさんをじっと見つめたら彼も同じことを思っていたらしい。
弱ったような顔をして眉根を寄せた。
「日和美さんのお陰で一息つけました。ですが残念ながら今のところ何ひとつ思い出せる気配がありません」
一応それでも、と道端で見た時より念入りに精査するため、スーツのジャケットやベストを脱いでもらって、あちこち二人で見たのだけれど、やはり身元を示唆するようなものは何もなくて。
念には念を入れて脱衣所でズボンやネクタイ、ワイシャツやパンツに至るまで全て脱いでセルフチェックもして頂いたけれど、結果は変わらなかった。
(お財布なしも不思議だけど……携帯すら持っておられないって……なんかちょっと不自然すぎない……?)
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