(3)君の名は

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 もうここまでくると、やはりふわふわさんはどこぞの国の王子様とかで……何かの紛争――例えば後継者争いとか?――に巻き込まれてお忍びで日本まで逃げていらしてて。そう! それで追手(おって)から逃れるために身バレするようなものは何も手にせず高級ホテルとかから逃げ出していらしたんじゃないかしら⁉︎とか、ありもしない迷夢(めいむ)が脳内で大暴走を開始してしまった日和美(ひなみ)だ。  いや、そもそもこの近くに高貴な方がお泊まりになられるような高級ホテルなんてものはないし、お忍びなら逆に(ひな)びた逗留先(とうりゅうさき)を選ぶ気もするけれど、残念ながら仮にそこまでランクを落としたとしてもホテル自体がこの辺りにはない。  だが、そんなこと、映画チックな妄想をしたいだけの日和美には大した問題ではなかった。 *** 「弱りました……」  危うく心が遠い地へ旅立ちそうになっていた日和美は、ふわふわさんのその声でハッと我に返った。  当然と言うべきか。  自分が誰であるのかすら分からない状況を改めて突き付けられて、泣きそうな弱々しい顔をしたふわふわさんに、日和美もどうしたら良いのか分からなくなる。  分からないままにソワソワと部屋を見まわしたら、壁に掛けた時計が目についた。 「――‼︎」  時刻はそろそろ正午に差し掛かろうかというところ。世間ではいわゆるランチタイムの到来だ。  いや、それよりも!
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