(5)事実は小説よりも波乱万丈?

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 日和美(ひなみ)の大好きなティーンズラブの展開ならば、そんな障壁の全てを乗り越えて、二人はハッピーエンドになるのだけれど……現実はそう甘くない事も知っているつもりだ。 「不破(ふわ)譜和(ふわ)さんの馬鹿ぁ……」  勝手に一人で盛り上がってこんな暴言を吐くなんて最低だと思いながら、日和美はそうつぶやかずにはいられなかった。 *** 「山中さーん」  受付に名前を呼ばれて日和美はグシグシと涙をぬぐって立ち上がった。  現在絶賛記憶喪失中の不破だ。  問診票を書く際、患者氏名の欄に仮名(かりな)として「不破(ふわ)譜和(ふわ)」と書こうとして。  さすがにこれはない!と躊躇(ためら)った日和美は、結局「山中譜和(ふわ)(仮名)←記憶喪失のため」と書いてしまったのだが。  書きながら(ヤダッ。婿養子!)なんて思ったことは内緒だ。 「お会計は四万二千五百円です」  さらりと言われて、内心ヒエッ!と思ったけれど、不破に要らぬ気遣いをさせるわけにはいかない。  平常心を装って「カードでお願いします」とフルフル震える手を必死に押さえながら極力スマートに(?)財布からクレジットカードを取り出す。
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