(5)事実は小説よりも波乱万丈?

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*** (しまったぁぁぁぁあ!)  家に帰るなり日和美(ひなみ)は心の中で声にならない悲鳴を上げた。  不破(ふわ)譜和(ふわ)効果ですっかり舞い上がって散財しまくった挙句、ここを出る時に「買わねば!」と決意していたはずの一番の目的を買い忘れたことに気が付いたのだ。 「不破さん、テレビでもご覧になられながらちょぉーっと待ってて下さいねぇ~?」  震える手でテレビのリモコンを持って、電源ボタンを押してから不破にそれをフルフルしながら手渡す。 「あ、あの日和美さん?」  そんな日和美の挙動不審な様子に、不破が不安そうな顔をして。  日和美は彼をなだめるよう努めて自然に見える笑顔を取り繕ったつもりなのだが、実際は極めて不自然な笑みを顔に張り付けた状態で寝室(秘密の花園)に足を踏み入れる羽目になった。  そんな日和美の様子が、不破をさらにソワソワさせているだなんて気付かないまま。  リビングにしている部屋との境目の仕切り戸を細心の注意を払って細々と開けた日和美は、ぎりぎり横向きに通り抜けられる程度の隙間からカニみたいにススッと横スライドするようにそこを通り抜けて、後ろ手にピシャッと引き戸を閉ざした。 (私、くのいちになれちゃうんじゃない!?)  実際には胸がそんなに豊満じゃなかったことが幸いしたのだけれど、そこにはあえて目をつぶった日和美だ。
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