(5)事実は小説よりも波乱万丈?

10/10

516人が本棚に入れています
本棚に追加
/328ページ
 くのいち日和美(ひなみ)が隣の部屋に不破(ふわ)を置き去りにしたまま忍び込んだ寝室は、思わず吐息が漏れてしまうほど趣味に溢れた素敵空間で。 (はぁ~。この毒々しいまでにド・ピンクの背表紙にガツン!と踊る(いばら)のような飾り文字が堪らないのよっ♥)  なんて壁一面を埋める本棚を前にうっとりする。 (ってそれがまずいんじゃないの!)  そう。  この一見しただけで分かるピンク色の背表紙の群れは、どう見ても妖艶でいかがわしい香りを放っていて。  とてもじゃないけれど「こう見えて全部普通の文学作品なんですぅ~♪」と言うには無理があった。  だからこそ布で覆って目隠ししてしまう予定だったのに!  日和美は不破への買い物に浮かれポンチになっていて、布を買うのをすっかり忘れてしまったのだ。 「どうしよう……」  声に出してつぶやいてみたら、ちょっとだけ気持ちが整理出来てきた。  そう。不破は紳士的な人なので、きっと日和美の許可なくこちらの部屋に入るような無粋(ぶすい)な真似はしないに違いない。  何せ――。 (そうよ! ここは仮にもレディの寝室なのよ! 殿方が勝手に入っていいような空間じゃないわ!)  とりあえず、本棚目隠し用の布を買ってくるまでは、不破にそれとな~く、「こちらの部屋には立ち入るべからず!」と申し伝えておこう。  そうすれば日和美の秘密はきっと守られるはずだ。  しかし、日和美は自分の名案(迷案?)に(おぼ)れるあまり、人間の心理についてすっかり失念していたのだ。  人は禁忌だと言われれば言われるほど、破りたくなってしまう生き物だと言う事を――。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

516人が本棚に入れています
本棚に追加