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記憶を失っているはずの不破の口から、その手掛かりになりそうな記憶の断片みたいな言葉が出てきたことよりも、もしかしたら彼にはどなたか決まったお相手がいらっしゃるのかも知れない、と思う方が胸をチクチクと刺してきてしんどいと思ってしまった日和美だ。
(不破さん……)
彼のことをそう呼べるのも後ちょっとなのかも知れない。
日和美はツンと痛くなった鼻をシュン、とすすり上げると、
(だったら今だけ)
そう思って不破の胸に頬をすり寄せた。
***
『日和美さん、好きです。愛しています』
『私もです! 大好きです、不破さん!』
出会ってたった一日。
布団の落下から始まった稀有な偶然が引き合わせた二人は、恋に落ちるのも急転直下。
出会った翌日には二人同時にお互いに対する烈火ような想いに気が付いて、恋の炎は瞬く間に燃え広がった。
そうして今まさに。
一面の花畑の中で二人。嘘偽らざる気持ちを確かめ合ったばかり。
彼はやはり某国の王子さまで、国には親が決めた隣国の姫君様な許嫁がいて……結婚しなかったら戦争になってしまうかも知れないって。
『こんなに愛し合っているのに……。一緒にはなれないんですね、私たち』
うわーん!
日和美は鼻水と涙でぐしゃぐしゃに泣き濡れながら、ヒシッと不破譜和にしがみ付いた。
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