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(不破さん、ますます貴方に対する謎が深まるばかりですっ)
北欧かその辺りの国の、金髪碧眼王子様さながらの外見の彼から〝どんぶり勘定〟などという言葉が出たことも。
ましてやそんな彼が、まるで庶民みたいに細かい金額まで気にしてしまうことも。
(あっ――!)
そこで日和美はハタと気が付いた。
(そうか。そうなんだ。だからなんだ)
妄想を暴走させた挙句一人勝手に納得して、不破を切ない目で見詰める。
「日和美さん?」
急に憐憫のこもった眼差しを向けられた不破は混乱しまくり。
(王子っ。皆まで言われなくても日和美は分かりました! 王子はきっと財政難に苦しむお国の出身なのですねっ!? だからこれ程までに庶民的でいらっしゃるんだわっ)
日和美の中では、先代の王が傾城傾国の美女にたぶらかされて、王妃である不破の母親や、息子である不破に慎ましい生活を求めている姿が、ちょっと手を伸ばせば触れられそうなくらいありありと浮かんでいた。
王子の国は、きっと冬になると大雪に閉ざされてしまうような風土に違いない。
だからこそ、彼は抜けるような白い肌をしていらっしゃるんだ。
そんな勝手な思い込みのもと、日和美脳内劇場では、今まさにろうそく一本の頼りない灯火のもと、小さなパンを幼い妹と分け合って食べる不破の姿が思い浮かんで。
場面転換後。
暖房設備も満足に整わない部屋の窓を冷たい木枯らしが容赦なく叩く夜に――。
薄っぺらい毛布にくるまって震える年端の行かない妹――名前はきっとルティ!――をすき間風から守るように抱きしめて眠る優しい兄としてのふわふわ王子の姿も、まぶたの裏にクッキリと焼き付いてしまった。
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