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俺は人間として新たな生を受けた。と同時に、この身は悪魔でもあるらしい。
知識を与えてくれる者はいないが、そうとしか思えない……全身を走る黒い意味ありげな紋様。赤子とは思えない赤銅色の強靭な皮膚に、濡れた猫のようなくすんだ白い髪。
そしてなにより、生まれ方が……人間のそれじゃあなかった。
どこかの腐った動物の死体を糧にして、俺は誕生した。
それはまるで、キノコが寄宿者から栄養を吸い取って成長するかのようだった。
死体から自身の肉が生まれていくあの感覚は、なまじ自我を繰り越して持っていただけに、今思い出しても身の毛がよだつ。キモいキモい……。
そんなんだから親戚はおろか、親さえいない。
名前も知らない深い森の中、人の子と同じ赤ちゃんから始まって、およそ五年で衣食住をどうにか自力で整えた。
といっても、主人の居ない横穴を占領し、狩った獣の皮を適当に体に巻きつけ、口にするのは草と木の実と獣の肉くらいなものだ。
跋扈する獰猛な獣たちに、何度この身を食い散らかされそうになったことか……。
数多の死線を掻い潜ってこれたのは、転生前の知識や知恵があったからだろう。それと――身体の紋様が黒く輝くのと同時に、魔法と呼ぶに相応しい不思議な力を操ることができたからだろう。
「ファイガ」
と名付けた黄色がかった炎を生み出す力。
俺は、今夜のオカズになってくれる野生の四足獣に狙いを定めて炎の塊――ファイガを放った。
狼を肥え太らせたような獣は、機敏に脚を動かして回避する。
不意打ちならまだしも、真正面からでは簡単には食らってくれない。
「土遁の術」
俺は息せく間もなく、周囲の土や石を操る力を使う。回避した先の四足獣の前足二つを地面に沈め、固定する。
「100万ボルト!」
実際に100万ボルトあるかどうかはさて置き、高圧電流を操って遠距離から攻撃する。
が、軌道が荒れて、近くの紅葉にも似た落葉樹に吸われてしまう。
「100万ボルト。……100万ボルト……100万ボルトォォ!」
俺は某マスターを志す少年になったつもりで連呼し、そのペットになったつもりで連射した。
さながら、的当て訓練の様相である。
幾つかの樹々を薙ぎ倒して、稲妻の一筋が四足獣と繋がった。本流から分岐した細い線だったが、威力は十二分だ。
まるで電源の切れたトースターのように、四足獣の滾っていた活力が急速に停止へと向かう。
どさりと地面に倒れ、ピクリともしなくなる。
「たたたーたーたー、たったたーーー↑」
俺は前世でよく鼻歌で奏でていた戦闘勝利ファンファーレを、開放的な気持ちで口ずさむ。
背格好が大人ならもっと様になるんだろうけど、背伸びしたって五歳児は五歳児である。呂律も絶妙に回っていない。
練習込みの荒い戦い方だったが、100万ボルトに限っては、前方に飛ばせるだけかなり進歩した。
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