1人が本棚に入れています
本棚に追加
「少年、よくぞ一人でここまで強くなった…………これ一度言ってみたかったのよ」
「誰だ!?」
いつかのどこかで聞いたことのある若い女の声がした。おごそかを装っているが、口の端からうっすらとした愉快さがこぼれてしまっている。
森の奥に視線を凝らすも、影も形も見当たらない。
「こほん! 一つ前のページは如何にもな説明調で、見ていて実にあくびの出る内容でした」
「ページ? な、なんの話をしている? よく分からないけど、怖い話題を出すな! どこにいる、姿を現せっ」
「私は今、あなたの脳内に直接語りかけています」
「テレパシー!?」
「そんなエセファンタジー的要素とは違います。私の細胞の一部を、あなたの脳細胞の一部とすり替えておいたのさっ! 許せっ!」
「許さん! まだエセファンタジーな方が良かった、なんて怖いことをするんだ……考えたら、うぇ、気持ちわる……」
「そこ、乙女をナチュラルに気持ち悪がらないで。普通に傷付くわ……。細胞の名は、L細胞と言います」
「L? Lとはなんだ!?」
「ふふふ。私がLです」
「お前の名前かよ!」
目を付けられてはいけない存在に背後を取られ続けているような、嫌悪感で余計に気分が悪くなる。
「というか君、あの時の悪魔だよな」
「そうですよ。いつまでこんな陰気な森でスローライフしてれば気が済むんですか? とっとと私の元彼を殺しに旅に出なさいよ」
「スローライフじゃなくて、ベリーハードライフなんだけど……」
今でこそ生活にゆとりらしきものが生まれてきているが、誕生してすぐの頃は、何度も死に目を見てきた。
「うるっさいわね。昨日はたまたま大負けして虫の居所が悪いってのに……ムカついたからこれでも食らえ、L細胞タイフーン!!」
「うおおぉぉ痛い! 頭が割れるように痛いィ!」
「ふふふ、この私に口答えするからですよ。じゃあ私これから大金を稼ぐ予定なので、夜までにはこの森を発ってくださいね。バイビー」
頭痛の大本は無くなったが、ズキズキとした痛みが鈍く残る。
「もし全財産すって帰宅した悪魔が、いまだ森に留まる俺を知ったら……」
――殺される。
ヒヤリとしたものが背中を伝って降りていく。冗談じゃない。一度ならず二度までも、同じような理由で殺されてたまるか。
俺は倒した四足獣を放置して、その場を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!