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日の沈む頃。
獣の皮で作った肩掛けバッグ一つで、俺は生まれて初めて森の外へ出た。
夢のように広がる草原の遥か彼方に、夕の光に照らされた城のような建造物が小さく窺える。
「早くも緊張してきた……」
人とまともに会うのは五年振りになる。しかもこの身なりで、この世界に関しては無知もいいところ。上手く馴染めるだろうか?
そもそも、あの城を作ったのは人と呼べる存在なのだろうか。エルフやドワーフ、獣人や猫耳娘が居ても不思議はない。
「言葉は通じるのか?」
不安を数えれば切りがないが、引き返すという選択肢は恐ろしくて選べなかった。
「そこの男の子! 私を助けてっ!」
不意に聞こえた声に振り向くも、なにもない。
俺はL細胞を真っ先に疑ったが、声がすこし違うし、なにより耳を通して聞こえた気がした。
「私はここよ。もっと目線を上にして」
「……妖精!?」
見た目はまんま妖精だった。
トンボのように細く小さな、けれど人の体をしている。胴体に纏う布は簡素で、サンタの帽子を緑色に塗り替えたような帽子と、色合いはセットになっている。
特徴的な四つの透き通る羽を音もなくバタつかせて対空し、身振り手振りでなにかを必死に訴えている。
「私、こ〜んな大きい魔物に追われているの」
「そ、そう。なら早く逃げた方がいいんじゃない?」
「それができたら、こうして悠長に話してないわよ」
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