「俺、このブランド立ち上げがうまくいったら彼女に告白するんだ」

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「まあ、万結さんが嫌がってないなら応援くらいはしますけど」 「嫌がってない……と思う。ちゃんとメッセージに返信してくれるし、プライベートで誘っても断られない」 「そっすか」 それは同級生として最低限の礼儀なのでは、と思いながらも面倒くさくなって、花岡も松村も黙り込む。 ミラー越しに目を合わせた二人の間にはうちの社長大丈夫か……という共通の思いが浮かんでいた。 「協力してくれたらお礼はするから」 「……お礼って」 「お取り寄せグルメとか……あ、松村さんこの前ヤクルト飲みたいって言ってなかった? 福利厚生でオフィスに届けてもらおうか。花岡は最新iPad? 二人とも必要な機器あったら買うし、現物支給の方がよかったらそうする」 必死か。吐き捨てそうになるのを我慢する代わり、松村はぐっとハンドルを握り直した。ドン引きである。 入社した時、もしかしたらワンチャンあるかもなんて思っていたけれど、なしよりのなしだ。 三高に加え、三低のうち低姿勢と上場会社の御曹司という低リスクを兼ね備えた優良物件だと思ったのに、最後の低依存の部分があまりにも不安である。 本来の意味は家事や身の回りのことでパートナーに依存しないという意味だから一人暮らしの宗吾はこれもクリアしているのだろうが、精神面の依存が著しすぎる。とんだ事故物件だった。 これだけの条件が揃っていて女っ気がないのはどうしてだろうと訝しく思っていたが、蓋を開けてみればこのざまだ。
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