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一途は一途だ。中学の時に一年だけ同じクラスだった同級生を十年思い続けるなんてなかなかできることはできない。
一歩間違えればストーカーだが。いや、外見と自社の社長であることを割り引いてみても、完全に激重ストーカー男と言っていい。
これまで恋多き女として気の向くままに男を乗り換えてきた松村としてはちょっと腰が引ける。
彼の想い人はどうだろうか。
商談で容量を使った脳に更なる負荷がかかるのを感じる。
糖分が欲しい。本当は酒がいいけれど、まだ仕事が残っている。
「今日残業するので何か買っていってもいいですか」
「勿論。皆の分も買っていこう。甘いのとしょっぱいの、どっちの気分?」
「甘い物……いや、揚げ物がいいですね。ちょっと面倒な作業があるんで」
「じゃあ風見亭は?」
風見亭とは会社の近所にある定食屋である。唐揚げが絶品で、ジザイの社員たちもよくお世話になっていた。
「賛成!」
「俺はエビフライがいい」
「白米がほしいね」
花岡と宗吾がそれぞれ希望を口にするうちに、前方にオフィスの入るビルが見えてきた。風見亭は同じ通りのもう少し先だ。
見れば宗吾が身体を屈めて足元に置いたビジネスバッグから財布を取り出そうとしている。
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