「俺、このブランド立ち上げがうまくいったら彼女に告白するんだ」

6/7

280人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
当然のように奢ってくれるつもりなんだろう。基本的にいい人なのだ、社長は。 今日の商談だってわざわざ社長自ら出向く必要はなかったのに同行してくれたのはフォローのためだ。 前回松村が単身で訪れた際、先方から暗に「担当が若い女の子だけじゃ頼りないなあ」というようなことを言われたと愚痴ったからに違いない。 帰社後も溜飲が下がらず社内で「ムカつく!」と息巻いていた際は「そう……大変だったね」なんてさらりと流していたのに、今回の商談が始まる前の顔合わせで松村が企画したZiZaiブランドのスーツの売れ行きが好調であることに触れてくれた。 自ら着用していたそのスーツの機能を見せ、松村の考案だと売り込んでくれた。 「松村は若いですが、感性は確かです」 その言葉がどんなに励みになったか。 一旦商談が始まると途端に存在感を消し、聞き役に徹するところも 任されて、信頼されているのだと感じられて闘志が湧いた。 そして前回の塩対応が嘘のように良い条件を提示してもらうことができたのだ。 前回も決して手を抜いたつもりはなかったけれど、比べると先方の身の入り方が違った。社長が自らが頭を下げに来たことが誠実だと受け取られたのだと思う。 そうとは気づかれないように気を回すのが得意な人なのだ。 代表になったのは実家のコネがあるからで自分は何もできないと言ってはばからないが、それだけなら気もこだわりも強い天才気質の花岡がつくはずがない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加