元婚約者の現状(2)

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 ☆★☆ 『キミの依頼は引き受けない。そもそも、その依頼を引き受けたところで僕にメリットはないからね』  そんな言葉が、ジャレッドの脳内で反復する。久々に出てきた王都は、すっかり様変わりしており、今までの記憶だけでは心もとない。そう思いながら、ジャレッドはとりあえずと取った宿への戻る道を歩いていた。  父にセイディを連れ戻すようにと指示をされ、早数週間。セイディは全く見つからない。初めこそ、王都でコツコツと人探しをしていれば見つかるものだと楽観視していた。だが、誰も知らないという。そもそも、王都はヤーノルド伯爵領よりもかなり人が多い。そんな方法で探していても見つからないことなど、すぐに分かりそうなものだ。だが、ジャレッドにはそんな冷静さなどなかった。早く、セイディを見つけなければ。そうしなければ、次期神官長の座を失ってしまう。そんな焦りがあったからだ。 (あの宮廷魔法使いは……!)  先ほど藁にも縋る思いで、宮廷魔法使いの元を訪れた。風の噂で暇な時ならば人探しを請け負ってくれると聞いていたため、訪れてみたのだ。しかし、結果は追い出される始末。話を聞いてもらおうとしたものの、彼は「忙しい」の一点張り。最後には「メリットがない」というほぼ一方通行の理由で依頼を拒否された。  しかし、ジャレッド自身にもこの依頼を引き受けたところでメリットがないことぐらい、分かっていた。ヤーノルド神殿は最近寂れ始めている。そのため、大金を払う術はない。さらには、物を要求されても手渡せるものなどない。……冷静に考えれば、宮廷魔法使いを頼ったところで無意味だったのだ。
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